現代日本版『桃太郎』

 

耳鳴りがした。

それが過去から聞こえるものなのか、あるいは未来から聞こえたものなのか、わたしにははっきりしなかった。

 

山奥のなにもない小屋。わたしは男と暮らしていた。男はわたしを好いていたが、わたしは男を好いてはいなかった。ただ、一緒にいた。理由はなかった。わたし達は長く生きて、くりかえし睦言を交わした。愛され、心に空いた穴を判然としないまま繕っていると、響いた。

 

世界が変わるほどの永遠の中で、男の影は、だんだんと濃くなっていった。耳鳴りは止まなかった。男の挙動にあわせて強弱を変えるだけだった。変わらない山奥では、わたしの影は、だんだんとぼやけた。

 

倍速で進む月日を一日止めて、空を飛んでいると、遥か昔のことを思いだした。わたしに好きな男がいたこと。男もわたしを好いていて、それもたぶん、男の「好き」はわたしと同じ「好き」だった。ただ、男とはどうにもならなかった。わたしは愛しあうことを怖れた。村を救った英雄が、どうしてキジと愛し合えるか、と。男はすぐに死んで、不老不死のわたしだけが生き残った。

 

わたしは永遠と存在して、あれから、言葉から離れた。濁すことも飾ることも呑むことも使うこともなくなった。現も幻もない。わたしの人生は、過去と未来さえも有耶無耶になりはじめていた。

 

そんな時だった。わたしがツイッターに出逢ったのは。鬼を退治し、村を救った英雄"桃太郎"に初めて会ったときの衝撃を、わたしは感じていた。耳鳴りは未来から聞こえていた。わたしは言葉をつぐだけだ。

 

キジ @kjlovepeach

むかしむかし、あるところに、

おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へしばかりに、

おばあさんは川へせんたくに行きました。
おばあさんが川でせんたくをしていると、

ドンブラコ、ドンブラコと、

大きな桃が流れてきました。
「おや、これはいいおみやげになる」
おばあ次

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