満月になってからの月が好き

 待合室に座ったら、みんながスマホを持っている。だから私も持ってみた。用事のふりしてスクロール。横目でとなりの人を見て、用事のふりしてスクロール。彼は私を見ていない。紺のジャンパーを脱いでいる。冬の外は寒いのに、ここは春くらい暑い。

 最近、夢を続きから見る。同じとこから始まって、終わり方はいつも違う。私の意志で動けたり、お話ができる。「めんせきむ」ってやつ。(あ、声に出ちゃった) 横目でとなりの人を見て、多分音楽を聴いてる。この人は、名前を呼ばれたらどうするんだろう。

 昔から友達はいなかった。でも夢の中では四、五人いた。幼馴染みみたいな仲だった。現実では会ったことがない。仲がよくてしょっちゅう遊んだ。ずっと一緒にいたいと思うくらい。名前とか、見た目とか、でもはっきり覚えてない。(それにしても、まだかなあ) 急いでるわけじゃない。何もすることがないのに、用事のふりしてスクロール。ちょっと飽きてきた。飽きてきたというか、なんだかちょっと恥ずかしい。

 夢を続きから見るようになったのは、十七歳になってから。中学校ではいじめられて、高校はつまらなくて辞めちゃった。お昼はお母さんを手伝って、夜に寝たら夢を見る。友達と遊んで、朝起きる。なにも嫌なことなかった。

 診察室から先生がでてきて、となりの人の名前を呼んだ。二回目、三回目。音楽を聴いてるせいで聞こえてない。この人は何回か見たことがある気がする。多分、この病院で。知らないふりをした。四回目が呼ばれることはなかった。五分くらい経ってから、私が呼ばれた。携帯をしまって、横目で見たら目が合った。やっちゃった。俺が先じゃないのかって顔してる。知らない。音楽聴いてる方が悪い。

 先生はいつも難しい話をする。私は薬がほしいだけ。でも、何でみんなに会いたいのに眠れないんだろう。(遠足の前の日に眠れないみたいなやつかな) 「聞いてますか?」 あ、ごめんなさい。先生、ちょっと怒ってる。

 今日はいつもより多めに貰ったけど、何の薬か分からない。もうちょっと先生の話聞いておけばよかった。でも聞いたって分からないし、やっぱり先生が簡単に話してくれればよかった。(それにしても、多すぎるなあ) 六袋もあるよ。七種類もある。 「一個もらってあげよっか?」 あれ、夢の友達。 「何でいるの?」

「うん」「夢だって分かったの?」「だってこんな欠けてる太陽ないもん」 そうだったんだ。うれしいな。最初から、分かってくれてたらよかったのに。